大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和63年(ワ)5798号 判決

原告

鈴木麻二

ほか五名

被告

松口幸治

ほか二名

主文

一  被告らは、各自、原告鈴木麻二に対し金六五四万二八九四円、原告鈴木保男に対し金三二七万一四四七円、原告浅井徹夫に対し金一六三万五七二四円、並びに原告浅井正行、原告浅井美奈子及び原告由美子に対し各金五四万五二四一円を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告鈴木麻二(以下「原告麻二」という。)に対し金一〇三五万六七九七円、原告鈴木保男(以下「原告保男」という。)に対し金五一七万八三九八円、原告浅井徹夫(以下「原告徹夫」という。)に対し金二五八万九一九九円、並びに原告浅井正行(以下「原告正行」という。)、原告浅井美奈子(以下「原告美奈子」という。)及び原告浅井由美子(以下「原告由美子」という。)に対し各金八六万三〇六六円を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六二年五月二六日午後四時一〇分ころ

(二) 場所 東京都荒川区西尾久一丁目二二番一三号先路上

(三) 加害車 原動機付自転車

右運転者 被告松口幸治(以下「被告松口」という。)

(四) 被害者 鈴木ツギ子(当時六九歳。以下「ツギ子」という。)

(五) 態様 ツギ子が前記場所の道路を横断中、同道路を明治通り方面から小台橋方面に向けて進行してきた加害車が衝突した。

(六) 結果 本件事故の結果、ツギ子は同日午後八時二三分ころ死亡した。

2  責任原因

(一) 被告松口

本件事故当時、加害車は前部の荷物篭に大量に新聞を積載し、前方の視認及びハンドル操作が困難な状態であつた。このため、被告松口は前方注視不十分のままハンドル操作を誤つた過失により本件事故を惹起したものである。

(二) 被告佐藤明雄(以下「被告佐藤」という。)

被告佐藤は、加害車を所有し、本件事故当時、自己のため運行の用に供していたものである。

(三) 被告共伸企業株式会社(以下「被告共伸企業」という。)

被告共伸企業は、被告松口を使用していたものであるが、本件事故は、被告松口が被告共伸企業の事業である新聞配達の業務中に生じたものである。

3  損害

ツギ子の死亡に伴う損害の数額は次のとおりである。

(一) 葬儀費用 金一〇〇万円

(二) 逸失利益 金一〇四四万五六九四円

(1) 女子労働者の平均賃金年額 金二三〇万八九〇〇円

(2) 期間 八年間

(3) 生活費控除 三割

(4) ライプニツツ係数 六・四六三

(三) 慰藉料 金二〇〇〇万円

(1) 原告麻二につき金一〇〇〇万円

(2) 原告保男及び浅井敬子(以下「敬子」という。)につき各金五〇〇万円

(四) 弁護士費用 金三〇〇万円

4  相続

原告麻二はツギ子の夫、原告保男及び敬子はツギ子の子であり、ほかにツギ子の相続人はいない。

敬子は、昭和六二年一二月二五日に死亡した。原告徹夫は敬子の夫、原告正行、原告美奈子及び原告由美子は敬子の子であり、ほかに敬子の相続人はいない。

5  損害の填補 金一三七三万二一〇〇円

原告らは、本件事故による損害の填補として自動車損害賠償責任保険から金一三七三万二一〇〇円の支払いを受けた。

よつて、原告は、被告らに対し、民法七〇九条、七一五条及び自動車損害賠償保障法三条に基づき、各自、原告麻二につき金一〇三五万六七九七円、原告保男につき金五一七万八三九八円、原告徹夫につき金二五八万九一九九円、並びに原告正行、原告美奈子及び原告由美子につき各金八六万三〇六六円の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実について、(一)は否認し、その余は認める。

3  同3の事実について、(一)は不知、その余は否認する。

4  同4、5の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故現場は、小台橋から明治通りに通じる通称小台橋通り(以下「本件道路」という。)上で、同所において道路幅員は一〇・八メートル、車道部分の幅員は六メートルである。本件道路は、自動車の交通量が多く、また、本件事故現場より南方約五一メートルの地点には信号機の設置された横断歩道がある。被告松口は、加害車を運転して本件道路を明治通り方面から小台橋方面に向けて進行中、本件事故現場の約九・三メートル手前で道路中央付近に佇立しているツギ子を発見した。そこで、被告松口は、ツギ子を先に横断させようと考え、ツギ子の約五・一メートル手前で一旦停止した。被告松口は、約四秒間停止したがツギ子が動こうとしないので、加害車を発進させたところ、ほぼ同時に、突然ツギ子が加害車の方に向けて斜めに横断を開始した。そのため、被告松口は、加害車を急制動したが間に合わず、加害車がツギ子に衝突したものである。右によれば、ツギ子にも、比較的交通量の多い道路の横断歩道ではない場所を通行中の車両の動静に十分注意することなく横断を開始した点、及び加害車の接近を認め一旦横断を中止した後加害車の動静に注意することなく突然斜めに横断を開始した点に過失があり、ツギ子の右過失も本件事故の一因というべきであるから、原告らの損害を算定するに当たつては右の点を斟酌して減額されるべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の証拠目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  同2の事実について

1  同2(一)の事実について判断するに、成立に争いのない乙第一号証の一ないし第二号証の四及び前記争いのない事実を総合すれば、被告松口は、昭和六二年五月二六日午後四時一〇分ころ、加害車を運転して本件道路を明治通り方面から小台橋方面に向けて進行中、前方約九・三メートルの本件道路中央付近にツギ子が佇立しているのを発見し、同人から約五・一メートル手前で一旦停止したこと、被告松口は、同人が佇立したままであつたことから自車に進路を譲つてくれるものと考え、加害車を時速約五キロメートルの速度で発進させたところ、これとほぼ同時にツギ子が進路右方から左方に向けて横断を開始したため、加害車前部をツギ子に衝突させて路上に転倒させたこと、以上の事実を認めることができる。右事実によれば、被告松口は、加害車を発進させるに際し、ツギ子の動静を注視し、同人が横断を開始するか否かを確認し、あるいは同人に先に横断させてから発進すべき注意義務があるのにこれを怠り、同人が進路を譲つてくれるものと軽信して漫然と発進した過失により本件事故を惹起したものというべきである。

2  請求原因2(二)、(三)の事実は当事者間に争いがない。

三  同3の事実について

1  逸失利益 金一〇三三万七八八八円

前記乙第一号証の七によれば、ツギ子は、本件事故当時、夫の原告正行及び長男の原告保男と三人暮らしで、健康状態は普通、主婦として家事に従事する傍ら、時々家業のアイスクリーム製造業を手伝つていたものであり、本件事故に遭わなければ向後少なくとも平均余命の二分の一である八年間は右労働に従事することが可能であつたものと認めるのが相当である。そこで、賃金センサス昭和六一年第一巻第一表産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計の六五歳以上の平均年収額金二二八万五〇〇〇円を基礎として、生活費を三割控除し、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、右八年間の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、金一〇三三万七八八八円となる。

そして、請求原因4の事実は当事者間に争いがないから、原告らは、ツギ子の死亡及び敬子の死亡により、それぞれツギ子の右損害を法定相続分に従い相続したものというべきである。

そうすると、原告麻二の相続分は二分の一で金五一六万八九四四円、原告保男の相続分は四分の一で金二五八万四四七二円、原告徹夫の相続分は八分の一で金一二九万二二三六円、原告正行、原告美奈子及び原告由美子の相続分は各二四分の一で各金四三万〇七四五円となる。

2  葬儀費用 合計金一〇〇万円

成立に争いのない甲第二号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、ツギ子の葬儀を行い相当額の費用を支出したことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある損害としては金一〇〇万円(原告麻二につき金五〇万円、原告保男につき金二五万円、原告徹夫につき金一二万五〇〇〇円、原告正行、原告美奈子及び原告由美子につき各金四万一六六六円)をもつて相当と認める。

3  慰藉料 合計金一五〇〇万円

原告ら及び敬子とツギ子との身分関係、ツギ子の年齢、その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、ツギ子が死亡したことに対する慰藉料は、原告麻二につき金七五〇万円、原告保男及び敬子につき各金三七五万円をもつて相当と認める。そうすると、敬子の取得した慰藉料につき、原告徹夫、原告正行、原告美奈子及び原告由美子の相続分は、原告徹夫につき金一八七万五〇〇〇円、原告正行、原告美奈子及び原告由美子につき各金六二万五〇〇〇円となる。

4  過失相殺

本件事故の態様は、前認定のとおりであり、ツギ子は、本件道路を横断中、加害車が一旦停止したことから自己を先に横断させてくれるものと考えて横断を再開し本件事故に至つたことが推認され、この事故態様とツギ子の年齢等に照らすと、ツギ子に過失相殺を認めるべき格別の過失があつたということはできず、被告の過失相殺の主張は採用することができない。

5  損害の填補 金一三七三万二一〇〇円

請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

そこで、これを前記相続分に従つて、原告ら各自につきその填補額を求めると、原告麻二につき金六八六万六〇五〇円、原告保男につき金三四三万三〇二五円、原告徹夫につき金一七一万六五一二円、原告正行、原告美奈子及び原告由美子につき各金五七万二一七〇円となる。

6  弁護士費用 金四八万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは本件訴訟を原告ら訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告らが本件事故による損害として被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用の額は合計金四八万円(原告麻二につき金二四万円、原告保男につき金一二万円、原告徹夫につき金六万円、原告正行、原告美奈子及び原告由美子につき各金二万円)をもつて相当と認める。

四  結論

以上の事実によれば、本訴請求は、原告麻二につき金六五四万二八九四円、原告保男につき金三二七万一四四七円、原告徹夫につき金一六三万五七二四円、並びに原告正行、原告美奈子及び原告由美子につき各金五四万五二四一円の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例